アメリカやヨーロッパの映画を見ていると、よく次のようなシーンがある。恋人同士が外で食事をしたあと、彼が彼女のアパートまで送ってくると、別れがたい彼女が、ちょっとと寄って一杯飲んでいかない?なんて誘う。そして彼女は鍵をあけて先に中に入るが、今まで留守をしていたのだから室内は暗い。そこで彼女が電灯のスイッチをパチンといれると、部屋が明るくなり、さあどうぞ……なんてことは、中流以上のアパートの場合、まず絶対ないのですなあ。
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彼女はまず入口近くの小さな照明をつける。そしてその光をたよりに奥へ入ると、コートも脱がないうちに、室内を忙しく動きまわってあっちこっちのスイッチをひねる。そうするとフロアースタンドやスポットライトなどの部屋の一部だけを照らす照明がいくつも点灯し、そのいくつもの照明の光と影の交錯の中に部屋全体の姿が浮かび上がる。そこでやっと、さあどうぞお坐りになって……ということになるのだ。これは考え方によっては、点滅の手続きがたいへんめんどくさいのだが、そこに生まれる照明効果はたいへん良い。ところが日本では(現実にも、日本映画の中でも)かなり高級なマンションに住んでいる彼女でも、パチン、はいどうぞ、という口である。つまり照明が一つで部屋全体を照らしだす形式が多いのだ。そのほうが簡単でいいじゃないかと思う方は、これから先を読んでから、もう一度考えなおしていただきたい。ぼくはなんでもアメリカやヨーロッパの方が優れているなんて考え方は決してしないが、一般の住宅の照明方法については、アチラの方が水準が高いと思わざるを得ないのである。